ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン北海道> 記事

北海道発 バンクーバーへ

【北海道発 バンクーバーへ】

町工場 そり変える リュージュ

2010年02月09日

写真

写真

壮行会でお披露目された新型のそり。左から三島社長、安田選手、遠藤社長=札幌市中央区

■職人の技で新型開発・札幌(リュージュ)
■最先端、宇宙の素材で

 時速100キロ以上で氷のコースを滑走するリュージュ。札幌市出身の安田文選手(27)が五輪で使うのは、最先端の素材を使い、科学的知見を凝縮した初の国産そりだ。開発には、札幌の二つの町工場の技術と経験が生かされている。選手とともに、2人の社長も五輪に挑む。

 「今季はとても良い滑りができている。五輪出場の半分は新しいそりのおかげ」。4日に市内であった壮行会で、安田選手は2人を紹介した。

 国産そりは今季のW杯でデビューした。従来はそりの先に足をかけてかじ取りをする方法だったが、新型は、肩でそりに体重をかけることで操作する。これまでの常識を覆した開発の中心にいたのが二つの町工場だ。

 そりの組み立てなどを担ったのが東区の三島工業。三島久人社長(60)がリュージュ日本代表の高松一彦コーチから「日本製のそりづくりに力を貸して」と頼まれたのは約8年前。三島さんは、国産1号のボブスレー開発に携わった経験の持ち主。だが最初は乗り気でなく、「継続的に実験を行い、そのデータを開発に生かせなければできない」と一度は断った。

 高松さんは、宇宙航空研究開発機構(JAXA、本社・東京都)に、そりが受ける空気抵抗などを調べる風洞を使わせてもらう約束を取り付けてきた。振動の影響や重力加速度の方向を解析できる研究者の協力も得られるようになった。その熱意に「やるしかない」と気持ちが固まった。

 風洞実験で、足の操作は空気抵抗が大きいことが分かった。「足を使わない方がいいのか」「じゃあ肩だ」。方向性が決まり、09年にJAXAや東大の研究者らを交え、本格的な開発が始まった。

 そりは、イス部分の「シャーレ」と、刃を備えた木製の2本の滑走部分「クーへ」からなる。シャーレには、JAXAが提供した硬くて軽いカーボン繊維素材を使用。クーへは鉛を埋めて重くし、鉄板で包んで硬さを出した。こうすることで、重心が低く、足の操作より肩の加重を生かせる形状に仕上がった。

 本番目前も改良を続け、大みそかも徹夜。シャーレだけでも7回作り直した。三島さんは「気持ちは選手と一緒。入賞を目指してほしい。今後の参考になるデータもしっかり取ってきて」と話す。

 西区の「遠藤木型」の遠藤貞幸社長(59)のもとには2年半前、高松さんが突然訪れた。「そりの木型づくりを頼みたい」。リュージュのことは何も知らず、驚いた。わん曲した立体的な型も取れる数少ない最新機器を導入し、コンピューター制御で精密なデータどおりに型を起こす技術もあった。「そりを作るときは頼もうと、ずっと思っていた」と高松さんは言った。その言葉に、心が動いた。

 遠藤さんの担当は、シャーレの木型を取ることと、クーへの基礎部分の製作。その木型なら1カ月もかからないだろうという考えは、すぐに吹き飛んだ。「高松コーチの頭の中の考えを聞き取り、図面に引き出す作業の繰り返し。これが大変だった」。

 原発の排水パイプやマンホールのふたなど、鋳物の木型を取るのが本業。仕事ぶりが表に出ることが少ないだけに「自分たちの技術を世界の舞台で勝負できるのは幸せ」と遠藤さん。「安田さんは新型そりに慣れてきたと聞いている。本番でそれを出してもらいたい」

(小林舞子)

PR情報
朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

広告終わり