2.火刑の魔女 幽かな記憶の 糸を手繰るように 仄昏い森へ 足を踏み入れた 幼い記憶の 途を辿るように 入り組んだ森の 奥へと進んだ (小川を渡り おばけもみの木を左へと そこに佇む私の生家) 物心ついた時には、既に父の消息は不明で、 私と母は何時も二人、とても貧しい暮らしだった。 井戸に毒を入れた等と、謂われなき罪で虐げられる事も多く、 私にとって友達と言えるのは、森の動物達だけだった・・・・。 それでも 嗚呼 ねぇ 母さん 私は幸せだったよ その理由を ねぇ 知ってた? 貴女が一緒だったから それなのに 何故 母は 私を捨てたのか? どうしても それが 知りたくて・・・・ 小さな私を拾ってくれたのは 大きな街にある修道院だった けれど 激しく吹き荒れた改革の嵐と 新教徒達の手によって 嗚呼 無残にも破壊された 人生は数奇なもの 運命は判らないから ひとつの終わりは 新しい始まりと信じて 勇気を持って 積年の疑問を 解く為に 故郷を探す 旅を始めた (小川を渡り おばけもみの木を左へと そこに佇む私の生家) 私の来訪を待っていたのは、石のように年を取った老婆で、 まるで見知らぬその女性が、母であるとは俄には信じ難く、 娘であると気付く事もなく、唯、食料を貪る母の瞳は、 既に正気を失っているように思えた。 そして・・・・。 改宗したけれど時は既に遅く、 一人の食い扶持さえもう侭ならなかった。 懺悔を嗤う逆十字。 祈りは届かない。 赦しも得られぬまま、罪だけが増えてゆく・・・・。 森に置き去りにされた 可哀想な兄妹 捨てられた子の 悲しい気持ちは 痛いほど解るわ 鳥達を操り パン屑の道標を (消し) 真雪のように 真っ白な鳥に 歌わせて誘った 「見て、[Hansel] お兄ちゃん。ほら、あそこに家があるわ!」 「でも、[Gretel] それは、怖い魔女の家かも知れない・・・・けど」 「けど?」 「腹ぺこで・・・・死ぬよりましさ!」「死ぬよりましね!」 「屋根は焼き菓子。窓は白砂糖。 お菓子の美味しい家を、拵えてあげようかねぇ!」 嗚呼 遠慮は要らないよ 子供に腹一杯食べさせるのが 私のささやかな夢だった 嗚呼 金貸しだった夫は 生きては帰らなかったけど 幾許かの遺産を託けてくれていた・・・・ 老婆の好意に 無償の行為に 甘えた兄妹は 食べ続けた 少女はある日 丸々太った 少年を見て 怖くなった 「嗚呼、老婆は魔女で、二人を食べちゃう心算なんだわ!」 殺られる前に 殺さなきゃ ヤ・バ・イ! 背中を ドン! と 蹴飛ばせ!